2025.06.11
前回までのコラムでは「腸活の基本」と「腸内細菌バランスの乱れ」についてお話ししました。第3回は、いよいよ「オストメイトの腸内細菌叢」を取り上げます。
ストーマの位置(小腸=イレオストミー/大腸=コロストミー)によって、腸内細菌の“顔ぶれ”と“動き”が大きく異なることが近年の研究で明らかになってきました。今回は、そのポイントを4つに分けてご紹介します。
1.多様性(ダイバーシティ)の違い ― 小腸は“少数精鋭”、大腸は“多国籍チーム”
成人のイレオストミーでは、コロストミーに比べて腸内細菌のアルファ多様性(菌種の豊かさ)が低いことが報告されています。
小腸内は大腸よりも酸素が存在しやすい環境になります。これは小腸が比較的血流が豊富で、腸から酸素が供給されやすいからです。小腸には酸素が存在し、内容物の停滞時間が短いため、酸素に強く、単糖を素早く利用できる「厳選された少数精鋭」が活躍している、と言い換えられます。
一方、結腸は酸素がほとんどなく、かつ広い腸管を内容物がゆっくりと通過するため、発酵に適しており、多様な菌が安定して共存し、「多国籍チーム」となりやすいのです。
ですので、イレオストミーの方は善玉菌を「増やす」よりも “餌切れ” を防ぐことが鍵となります。水溶性食物繊維が不足すると多様性がさらに低下するため、食物繊維は少量ずつ・回数を分けて補給しましょう。
2.優勢種(どんな菌が多い?)― 主役が変われば、においも変わる
わずかな酸素や豊富な単糖がある小腸では“スプリンター”型の菌が優勢となり、消化に時間のかかる多糖が主な結腸では“マラソンランナー”型の菌が主役となります。
ストーマの位置で「作り出される代謝物」も変わるため、排泄物のにおいや性状が異なるのは当然の結果と言えます。
3.安定性(ゆらぎ)の違い ― “ジェットコースター”と“温室”
イレオストミーでは、食後数時間で細菌バイオマスが10倍以上に増え、絶食で一気に減るという“ジェットコースター”のような動きが観察されています。しかも、菌種レベルでは構成が保たれていても、同じ菌の中のサブタイプが数時間単位で入れ替わるほどダイナミックです。
対照的にコロストミーの細菌叢は日内変動が小さく、細菌量・菌種ともにほぼ一定で、善玉菌により作られた短鎖脂肪酸も豊富で、まさに「育ち盛りの温室」のようになっています。
イレオストミーの方が「同じ食事でも日により便の量やにおいが違う」のは、この急変動が原因です。急な下痢や便量の増加は水分とミネラルの喪失を招くため、経口補水や塩分の補充をお忘れなく。
4.押さえておきたい年齢・フレイル・BMI・肥満の影響
高齢者、とくにフレイル(虚弱)状態では、短鎖脂肪酸である酪酸や酢酸を作るFirmicutes門の菌が減少し、腸のバリアである粘液を食べて増殖するProteobacteria(大腸菌群)が増加し、これによりリーキーガット症候群のリスクが高まり、炎症が引き起こされ、短鎖脂肪酸を産生する菌の生育が阻害されるとされています。またBMI上昇や肥満によっても腸内細菌叢の乱れにより、リーキーガット症候群が引き起こされる可能性があり、注意が必要です。
小腸には酪酸産生菌がほとんど存在せず、短鎖脂肪酸が少ないため、イレオストミーの方は水溶性食物繊維であるわかめや玄米などを“少量頻回”で摂取する必要があります。一方コロストミーの方では、酪酸産生菌の保全が重要で、定期的な発酵性食物繊維であるキウイや大麦などで酪酸経路を刺激しましょう。
オストメイトのみなさんへ ― 今日からできるやさしいヒント
食後にパウチがふくらんだり、においが強まったりするとドキッとしますよね。でも、それは小腸に住む “せっかち” な細菌たちが大忙しで働いているサイン。まずはあわてずに水分と電解質を少しずつ補い、細菌の“お祭りタイム”が過ぎ去るのを見守りましょう。
発酵食品や水溶性食物繊維は、大腸で暮らす“職人肌”の善玉菌たちの大好物。彼らがつくる短鎖脂肪酸は、腸壁を修理する名医でもあります。味噌汁やヨーグルト、もち麦ご飯をいつもの食卓に少し足して、腸を内側から応援してあげてください。
パウチは毎日の健康レポート。色、におい、泡立ち……「あれ? いつもと違うかも」と感じたら、どうかひとりで抱え込まず、主治医や看護師に気軽に声をかけてくださいね。早めの一言が、腸内細菌の“SOS”を救う近道です。
小腸でも大腸でも、そこにいる細菌たちはオストメイトのみなさんと二人三脚で生きています。今日の小さな工夫が、明日の快適さにつながる ― そう信じて、無理のない範囲で続けてみましょう。
さて、次回はいよいよ最終回です。私が毎日続けている腸活ルーティンやサプリ選びのコツ、そして「えっ、こんな方法が効くの?」というちょっと意外な裏ワザまで ― 包み隠さず大公開します。さらに、腸活を続けた結果、私自身の体と心にどんな変化が訪れたのか、リアルな“ビフォー&アフター”もお伝えする予定です。
腸活は「特別な人だけの健康法」ではなく、誰でも今日から始められる“じぶん応援プロジェクト”。みなさんが「これなら私もやってみようかな」とワクワクできるよう、ラストに一番役立つヒントをぎゅっと詰め込みます。名残惜しい気持ちもありますが、最後までどうぞご期待ください ― 一緒に、もっと心地よいストーマライフを育てていきましょう!
医師
2002年杏林大学医学部卒業。
2006年同大学医学部消化器・一般外科教室に入局。公立病院、地域の基幹病院、離島の病院等で外科の経験を積む。
2021年亀有中央病院の院長に就任。
消化器外科のみならず、栄養管理チームのメンバーとしても活動し、現在も大学病院で治療に携わっている。