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既製品と特注製品の選び方

2023.10.30

これまで、弾性ストッキングの生地(丸編み/平編み)や「既製品」と「特注製品」の特徴についてみてまいりました。今コラムでは、臨床現場において、実際にどのように弾性着衣を選んでいるのかについて、ご紹介したいと思います。

●お一人おひとりの症状や暮らし方に合わせた弾性着衣の選び方

足を圧迫することでむくみの症状や皮膚状態を改善させる目的のために着用するための弾性着衣。
治療に必要な形状やサイズ、圧迫力について考慮することはもちろんのことですが、そのうえで大切なことは、お一人おひとりの方の「暮らしのなかでライフワークを大切にしていただきながら、心地よく着用していただく」ことです。

医師から処方される弾性着衣は、一時的に着用することで症状が改善される方もおられますし、長期間にわたり日常的な着用が必要になるという方もおられます。
短い時間ならガマンできる!と頑張る弾性ストッキングではなく、日常生活を送りながらうまくおつき合いのできる弾性ストッキングを見つけることが要となります。

例えば、主治医から「圧クラス2のパンティストッキング型の丸編み弾性ストッキング」を着用するようにと指示があった場合、「圧クラス2のパンティストッキング型の丸編み弾性ストッキング」のなかから、お使いになる方に必要なタイプの弾性ストッキングを選定しますが、国内外のメーカー毎に生地の特徴や細部の仕上がりは多様です。生地の滑らかさ、ウエストの形状、お腹と脚部分の切り替え幅、足先の構造なども様々です。

日中、足は重力の影響を強く受けるため,夕方になるにつれてむくみを感じやすくなります。
椅子に座る時間が長くなると、足くびや膝うら、足のつけ根の関節に生地が食い込みやすくなります。
食事中や食後にはウエストに圧迫感を感じることもあります。

そこで重要となるのが『試着をすること』です。
実際に試着をしてみますと“百聞は一見に如かず”であることがよくわかります。
なかなか多様な製品を一堂に取り扱っている施設が少ないのですが、ぜひ受診されている医療機関の方に病院内で試着ができるか聞いてみてください。

もしも取り扱いがなかったり、取り扱っている製品が少ないという場合には、東京都新宿区にある越屋メディカルケア株式会社の東京ショールームを訪問されることをおすすめします。
こちらでは国内外で取り扱う多くのメーカーの製品を試着をすることができます。
越屋メディカルケア株式会社の「東京ショールーム」

わたしも月に1度、こちらで弾性着衣の無料相談会を担当していますので、ぜひご活用ください。

それでは、ご参考までに弾性着衣の選び方についてご紹介します。
圧迫クラスの選択の基本の考え方は、第3回目のコラムで紹介した「圧クラスの指標」ご参照ください。
これらの要素を基軸に、日常生活の動きについてよくお話を聞いて、最終的にその方に症状や状況に合う弾性ストッキングを見つけていきます。

日常生活の動きにも配慮して選ぶ(参考例)

日中、足は重力の影響を強く受けるため,夕方になるにつれてむくみを感じやすくなります。
弾性ストッキングの役割は、着用したときに皮膚の壁となって、できるだけ起床時に近い状態を保つこと、重力の影響で足に溜まった過剰な水分をより上の方へと誘導することです。
椅子に座る時間が長くなると、足くびや膝うら、足のつけ根の関節に生地が食い込みやすくなります。食事中や食後にはウエストに圧迫感を感じることもあります。

とはいえ、伸縮性のある製品であることからも、まったくもって「食い込まない」弾性ストッキングは、基本的にはないと言えるでしょう。
この点が、弾性ストッキングを選ぶときに大変苦労する点でもあり、十分に配慮するべき点でもあります。

・例えば、以前から足のつま先なしの弾性ストッキングを着用されている方が、どうしても足先の口のところが締めつけられて痛いということをよくお聴きします。
このようなときには、足のつま先の加工が袋縫いされているタイプでなく。シングルボーダー(一重構造)のタイプから選ぶこともあります。
また足指にもむくみがみられるときには、弾性トウキャップを重ね履きすることもあります。


シングルボーダーのつま先タイプ
(弾性トウキャップを重ね履き)

・普段は平編みのしっかりとした生地の特注弾性ストッキングを必要とされる方が、趣味の社交ダンスやヨガを楽しみたいというときには、よりしなやかに動きやすい既製の丸編みの薄手のタイプに切り替えて、楽しくお過ごしいただけるように使い分けをしていただいています。

・下腹部をきちんと圧迫する(丸編み腹部加圧タイプ)を必要とされる方が、訪問診療や介護にかかわるお仕事に就かれている場合もあります。
日々、長時間の運転をされたり、中腰での作業が多いため、脚のつけ根に弾性ストッキングの生地が食い込んで痛くなるということがあります。
締めつけ過ぎや食い込みは症状を増強させてしまうため、勤務中には腰回りのゆったりとした丸編み弾性ストッキングの着用を中心にして、鼠径ラインでの食い込みを防ぎ、より心地よく動いていただけるように整えます。

・足のむくみに対して医療ケアを必要とされる方が妊娠された場合や妊娠中の足のむくみには、お腹の圧迫がソフトに設計されたマタニティ用の弾性ストッキングをおすすめします。


アンシルクマタニティライト
(既製品の丸編み弾性ストッキング)

以前は、ベージュやブラックが基本のカラーでしたが、最近ではメーカーによって毎年様々なカラーのバリエーションが紹介されています。
当施設では、チャコルグレーやブラウン、シックなパープルなども人気です。
医療としての基軸とファッションを愉しむ気持ちも同時に叶えることができたら嬉しいですね。


Juzoエキスパート(平編み弾性ストッキング)
2022-2023年トレンドカラー

本場ドイツでは、弾性ストッキングは医師の処方箋に基づき、専門病院やサニテートハウス(医療用品取扱店)などで購入しますが、そこには安全に弾性ストッキングのフィッティングや採寸を行う専門コンサルタントやドイツ連邦整形外科技術専門学校などにおいて訓練を受けた専門計測者が常住しています。

日本でも2002年に日本静脈学会において「弾性ストッキング・圧迫療法コンダクター」資格が設けられました。このような専門的な資格をもつ医療者の方が施設内におられたら安心です。

どのメーカーの圧迫製品をお使いになられても、安全かつより快適に効果が得られることが大切です。
その方の暮らし方、家庭や職場での活動のあり方、 ライフスタイル、お住まいの気候などについても併せて考えていくことで、ベストな弾性ストッキングが見つけられるよう願っています!

次回は、いよいよ最終回、『心が輝く 足に感謝のおもてなし』についてご紹介します。

PROFILE
佐藤佳代子 さん

リンパ浮腫療法士

20代前半にドイツ留学し、リンパ静脈疾患専門病院「Földiklinik(フェルディクリニック)」および「Földishule(フェルディ学校)」においてリンパ浮腫治療と専門教育の研鑽を積み、日本人初のフェルディ式「複合的理学療法」認定教師資格を取得。日々のリンパ浮腫治療を中心に、医療製品の研究開発、リンパ浮腫治療の普及活動、医療職セラピストおよび指導者の育成、医療機関や看護協会等の教育機関における技術指導、技術支援などに取り組む。

〈略歴〉
フェルディ式複合的理学療法 セラピスト資格取得(1998年)
フェルディ式複合的理学療法 認定教師資格取得(2000年)
ドイツ連邦共和国 医療マッサージ師 国家資格取得(2010年)
リンパ浮腫療法士資格認定(2013年)
NPO法人日本医療リンパドレナージ協会 副理事長(2014年)
国際リンパ浮腫フレームワーク・ジャパン研究協議会理事(2022年)