2023.08.28
日々、むくみの症状を抱える患者様とお会いしていますと、”医療用の弾性ストッキングは着脱するのが大変”という声をよくお聴きします。
たしかに医療用の弾性ストッキングは、厚みのあるしっかりとした生地ですので、柔らかくて光沢のある市販のストッキングと比べると着脱するのに時間がかかります。
その理由として、医療用の弾性ストッキングには、重力にあらがう段階的な着圧設計によって、「脚を引き締めてむくみを改善させる」、「症状を和らげて健康を守る」ための機能が備わっているためです。
市販のストッキングは15mmHg前後ほどの着圧です。
医療用は30mmHg前後の着圧がありますので、その圧迫力には歴然とした差がありますね。
とはいえ、「着脱するときは大変だけど、着用しているときは心地よい!」と感じられときには、弾性ストッキングのむくみ改善の良い効果を感じられることと思います。
もっともおすすめしたいことは、ご購入される前に、実際に幾つかの弾性ストッキングを試着されてみることなのですが、多種多様の製品が常備されている施設は限られているのも現状です。
それでも、各製品の特徴について知識を広げ、理解を深めることで、暮らしのなかで”より快適にお使いいただける弾性ストッキング”を見つけることができます。
むくみの原因や症状の程度を丁寧に確認しながら、数ある製品のなかからご自分の足にピッタリ、しっくりくる弾性ストッキングと出逢えるように、弾性ストッキングがいったいどのように製造されて、どのような特徴を持っているのか、一緒にみていきましょう!
●弾性ストッキングの編糸について
弾性ストッキングといえば、優れたフィット感と柔らかさ、しっかりとした着圧などが挙げられますが、必要な圧迫圧を生み出すために、どのような編糸が使われているのでしょうか。まずは、網糸の構造についてみてみましょう。
編糸の真ん中にある芯を「弾性糸」といいます。天然ゴム糸(ラテックス)やポリウレタン糸(スパンデックス)などが用いられます。
そして、この弾性糸のまわりを覆うように、ナイロン製やコットン製の「カバーリング糸」がらせん状に巻き上げられて、多層構造かつ伸縮性の高い特殊な糸が製造されます。
このような特殊な糸を用いることで、「弾性糸」と「カバーリング糸」のそれぞれの良さが奏功し、製品独自の特色をもつ耐久性に優れた品質が生み出されます。
それでは、必要な着圧の程度(圧迫クラス)はどのように生み出されているのでしょうか。それは、この軸心となる弾性糸の太さの違いによります。
圧クラス1と圧クラス2の弾性ストッキングを比べますと、圧クラス1はより細い弾性糸が、圧クラス2ではより太い弾性糸が使われています。
天然ゴム糸は、引き伸ばすと元の長さの4~5倍伸張し、ポリウレタン糸は5~7倍伸張する性質があります。
また、弾性ストッキングを着用した状態で身体を動かすと、「弾性糸」が引き伸ばされ、その伸張に合わせて「カバーリング糸」に戻ろうとする力が働くことで、必要な着圧が発揮されます。
●カバーリング糸の素材について
◆ナイロン糸
ナイロン糸を含む弾性ストッキングの特長は、〝生地の滑りの良さと肌触りの優しさ“です。
ナイロン素材は、伸張性が高いうえにとても軽く、コットン糸の10倍の摩擦へ耐久性があります。
弾性ストッキングのカラーはベージュやブラックが主流ですが、流行色を取り入れたカラフルな製品も豊富です。
◆コットン糸
コットン糸を含む弾性ストッキングの特長は、〝夏には涼しく、冬には温かく"感じられることです。
生地に含まれるコットンの含有量によって質感や肌触りが変わってきます。
肌にあたる内側の生地が100%コットンで作られている製品もあります。
同じベージュでもコットン糸が含まれると、すこし柔らかい色になります。
◆銀イオン糸
あまり聞き慣れないかもしれませんが、銀イオン(Ag∔)糸を含む弾性ストッキングもあります。
銀イオン(Ag∔)には皮膚感染症を引き起こす黄色ブドウ球菌を減少させる働きがあり、殺菌や消臭などの機能性が高いことから、皮膚のデリケートな方やアレルギーや炎症を繰り返しやすい方におすすめです。
生地はややシルバー系の色味になります。
医療用の弾性ストッキングを編むための特殊な糸は、100年以上にわたり臨床的な研究開発が積み重ねられてきました。
何気ない日々の暮らし、家庭や社会生活での活動、趣味のダンスやヨガなど、日常の細やかな動きに合わせて心地よく伸張し、効果的かつより快適にお使いいただける弾性ストッキングの研究開発は、国内外において絶え間なく進歩しています。
弾性ストッキングの試着ができる施設は少ないのですが、都内では、「越屋メディカルケア株式会社東京ショールーム」において、国内外で販売されるむくみをケアする様々な製品の試着ができます。
次回は、「丸編みと平編みの弾性ストッキング」についてご紹介したいと思います。
リンパ浮腫療法士
20代前半にドイツ留学し、リンパ静脈疾患専門病院「Földiklinik(フェルディクリニック)」および「Földishule(フェルディ学校)」においてリンパ浮腫治療と専門教育の研鑽を積み、日本人初のフェルディ式「複合的理学療法」認定教師資格を取得。日々のリンパ浮腫治療を中心に、医療製品の研究開発、リンパ浮腫治療の普及活動、医療職セラピストおよび指導者の育成、医療機関や看護協会等の教育機関における技術指導、技術支援などに取り組む。
〈略歴〉
フェルディ式複合的理学療法 セラピスト資格取得(1998年)
フェルディ式複合的理学療法 認定教師資格取得(2000年)
ドイツ連邦共和国 医療マッサージ師 国家資格取得(2010年)
リンパ浮腫療法士資格認定(2013年)
NPO法人日本医療リンパドレナージ協会 副理事長(2014年)
国際リンパ浮腫フレームワーク・ジャパン研究協議会理事(2022年)