2023.04.17
皆さん、こんにちは。日本音楽療法学会認定音楽療法士の柳川円(やながわまどか)です。
前回の記事では、音楽療法とは一体なんなのか。そして音楽療法士というのは一体どんなことをするのかについて、少しお話をさせていただきましたが、最後まで読んでいただけましたか?
<p今回は、音楽療法の現場では、具体的に対象者に対して、どんな音楽を用いてどんなことを行うのかについてお話をしていきます。
私は児童と高齢者を対象とした音楽療法を専門に行っていることから、今回は児童・高齢者どちらの例もご紹介させていただきます。
まず、高齢者を対象とした音楽療法では、デュアルタスク活動を取り入れることがあります。
デュアルタスク活動は、電話で話しながらメモを取るなど、二つの動作を同時に行うことで、脳の様々な部分を活性化させ認知症予防につながると言われています。
このデュアルタスク活動ですが、ただ足踏みしながら計算をするなど、トレーニング的に行うよりも、音楽に合わせて歌いながら楽器を鳴らす、音楽に合わせて歌いながら足踏みをするなど、音楽が入ることで、楽しみながら認知症予防に取り組むことができます。
音楽的技術はもちろん、障がいや疾患に関する知識も持ち、求められる音楽活動を考える。
次に、児童領域での音楽療法になります。
児童領域で行う際、発達障がいのある子供を対象に行われることが多いのですが、今回は、自閉傾向のある児童が対象者だった場合を例に説明させていただきます。(架空の例です。)
自閉傾向のある対象児は、他者とのコミュニケーションが難しく、音楽療法の場面でも、こちらがピアノで色々な曲を弾いたりしても視線が合わなかったり、なかなかこちらに意識を向けない状況だとします。そのような対象児に対して、どのように音楽を意図的に使用すればこちらに視線を向けるのかを目標に音楽療法士は考えます。
人は音楽を予測しながら聴いていることがあります。
例として、学校でよくやる「気をつけ」「礼」「気をつけ」の動きには、「ドミソ」のC、「シファソ」のG7、「ドミソ」のCのコード和音がつけられます。
人は「ドミソ」の「気をつけ」の音を聞いた後に「シファソ」の「礼」の音を聞くと、次に『「ドミソ」の音がくるだろうな』と予想しますが、ここで最後の「ドミソ」の和音が鳴らずに「シファソ」の礼の音で音楽が止まってしまったら、あなたはどうしますか?
「え?」「何かあったの?」と思わずピアニストに視線を向けることでしょう。
このような音楽の持つ予測するチカラを用いて、先ほど例に挙げた自閉傾向のある子がこちらに視線を向けるように促すことなどが、音楽療法の定義である「音楽の持つ生理的、心理的、社会的働きを用いて心身の障害の回復、機能の維持改善、生活の質の向上、問題となる行動の変容などに向けて、音楽を意図的、計画的に使用すること(日本音楽療法学会より)」となるのです。
音楽には、先ほど紹介した楽しみながら活動ができたり、予測してしまう以外にも、様々な効果があります。
前回の記事でご紹介した、音の空白を埋めたくなる効果や、特定の音楽を聴くと「閉店の時間」「開店の時間」という意識づけになる効果などなど…。
このような様々な効果を目の前の対象者に応じて、今、対象者の音楽療法的目的はいったいなんなのか。それを達成するためにはいったいどのような音楽が求められているのか、それを考え実行し、振り返りまた実行を繰り返す。これが音楽療法士の仕事です。
音楽療法士=音で人を癒す人というイメージだった方からすると、かなりイメージが変わったかと思いますが、いかがでしょうか?
そう、音楽療法士というのは、音楽的技術はもちろん、対象者の障がいや疾患に関する知識も持ち、求められる音楽活動はなんなのかを考えるクリエイティブな仕事も行う、とても幅広い技術、知識、アイディアが求められる仕事なのです。
以上が音楽療法の具体的な内容です。では、音楽療法が行われる際、具体的にどのようなプログラム内容で行われるのか、気になる方も多いかと思います。
次回は、高齢者の方を対象とした音楽療法のプログラムについてお話をして行きますので、興味のある方はお楽しみにしていてくださいね‼
日本音楽療法学会認定音楽療法士
北海道生まれ
日本音楽療法学会認定音楽療法士取得(2017年)
某音楽大学電子オルガン専攻卒。
卒業後、会社員を経てその後フリーランスの音楽療法士へ。
専門は児童、高齢者領域の音楽療法。
「広大な大地が広がる北海道出身の音楽療法士、柳川円です。広大な大地のような、広い心を持ちたいといつも思っています。ですが実際の私はすぐにイライラする人間なので、理想とギャップを感じたいという方は、ぜひ会いにきてください(笑)」