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高齢者の手指の巧緻性について一言

2022.07.11

一般に高齢になってくると、運動機能や認知機能が衰えて動作の反応も鈍くなり、指先の作業に時間がかかることが増えてきます。

特にストーマ装具の交換や、リンパ浮腫がある場合のセルフケアなどは、手指を使うことになるので、専門的な指導を受けたとしても、自宅で自己管理するとなると、初めのうちは介護する方も含めてかなり負担に感じるのではないでしょうか。

一方、若い頃から細かい手仕事をされてきた方や、元々裁縫、手編みなどに勤しみ、手先を常に使っていた方などは、高齢になっても手指の巧緻性の問題はあまり生じない傾向も認められていて、いろいろな予防法が巷に広がっているのもまた事実です。実際に、110歳になる私の親戚は、元々編み物、裁縫が得意な方で、90歳からは小さな折り紙作りを趣味としていますが、指は多少曲がってはいるものの、未だに手指の巧緻性には問題がなく、目立った認知機能の低下もみられないのです。

さて、この手指の巧緻性についてですが、2013年の「厚生の指標」の論文ですでに、高齢な健常者においても手指の巧緻性の低下と認知機能の低下には大きな相関関係があると発表されていました。

その中で、改訂長谷川式簡易知能評価スケールで調査をした20歳から50歳までの認知機能は一定していて、同様に巧緻性の指標もほぼ変わりないとの結果だった一方、50歳以上からは、どの機能も低下傾向となり、特に健康状態や認知機能の低下は手指の巧緻性にも大きく影響されるとありました。

このようなことから、なんらかのセルフケアが必要な生活を送る高齢者にとって、認知機能を低下させない為のトレーニングが手指の巧緻性を維持することになるなら、または逆に巧緻性を向上させるケアが認知機能を低下させない効果につながるなら、指体操などを積極的に取り入れることを提案したいと思います。

個人的な考えですが、なんらかのセルフケアをすることが、生活の質の維持のためには有効な手段になると思うのです。

手に触れている画像

もし手指の強ばりや緊張を感じたなら、その手指や手のひらに触れてほしい。

すでに全国のストーマ外来や看護外来などで、手指の巧緻性に問題がある方々に対し、個々に寄り添う工夫や支援が行われていますが、私はさらに一言加えたいと考えました。

もし、手指の巧緻性に変化を感じたなら、全身の把握と共に認知状態の確認をかねて、まずは感染対策をしながら手指や手のひらに触れてほしい。その手の強ばりや緊張は何かを訴えているはずだからです。

そして、簡単な刺激を与える指体操指導だけではなく、手のひらマッサージ、または手のリンパケアなどを短時間でも取り入れることをお勧めしたいと思います。

なぜなら、実際に皮膚に触れると脳を活性化するシステムが有り、特に皮膚と脳は外胚葉から形成されているので神経系の繋がりが深いからです。

具体的には、手のひらをそっと両手で包み込むように優しく触れ、皮膚を伸ばすように圧をかけずにマッサージするだけで心地よさが脳に伝わり、副交感神経優位となるのです。

すると、癒しのホルモンのオキシトシンが脳下垂体後葉から分泌されるので、緊張している身体はリラックスでき、手指の巧緻性低下の要因が年齢的なものなのか、緊張性のものなのか、運動機能が低下する疾患が潜んでいるのかなどを見極めるのに大いに役立つのです。

高齢者の手指の巧緻性に対応する関連用品の新たな開発もさることながら、手に触れるケアは実にサステナブルで、効果的なセルフケア指導につながるということを、明日はわが身として述べさせて頂きました。

PROFILE
山名敏子 さん

看護師、リンパケアリスト

<略歴>
聖路加国際病院ETスクール修了(1989年)
日本看護協会皮膚排泄ケア看護認定看護師資格取得(1998年~2013年)
一般社団法人リンパケアリスト協会顧問
NPO法人E-BeC(乳がん患者支援団体)名誉理事
埼玉県知事看護功労章受賞(2017年)